はじめに:取り付け面の腐食トラブル
ある日、工場の配管フランジからの漏れがないか点検していたとき、過去に取り付けた配管サポート(ブラケット)が、配管との取付面やブラケット取付面が激しく腐食していたことがあります。これは単なる使用環境の問題ではなく、実はこのトラブルの背景には「材質の相性」という見逃せない要因があります。
腐食のメカニズム:異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)
● 腐食が起きる3つの条件
異種金属が接触しただけでは腐食は起こらない。以下の3つが揃って初めて電気化学的腐食(ガルバニック腐食)は進行します。
- 異なる電位を持つ金属が接触している
- 電気を通す液体(電解質:水分や湿気など)が存在する
- 電気が流れる回路が形成されている
つまり、材質の組み合わせと水分環境が揃ったとき、取り付け面で腐食が加速します。
腐食速度の違い:材質の相性マトリックス
以下は、ブラケットやボルトなどでよく使用される材質の組み合わせにおける腐食速度の相性表です。(簡略化・実務向けに分類)。
低:腐食速度が遅く相性が良い
中:腐食はするが速度は遅い
高:腐食速度が早く相性が悪い
SS400 | SUS304 | S25C | 亜鉛メッキ鋼 | アルミ合金 | アルマイト処理アルミ | |
---|---|---|---|---|---|---|
SS400 | 低 | 中 (SS400が腐食) | 低 | 中 (亜鉛が腐食) | 高 (アルミが腐食) | 中 (アルマイトが先) |
SUS304 | 中 (SS400が腐食) | 低 | 中 (S25Cが腐食) | 中 (亜鉛が腐食) | 中 (アルミが腐食) | 低 (保護あり) |
S25C | 低 | 中 (S25Cが腐食) | 低 | 中 (亜鉛が腐食) | 高 (アルミが腐食) | 中 (アルマイトが先) |
亜鉛メッキ鋼 | 中 (亜鉛が腐食) | 中 (亜鉛が腐食) | 中 (亜鉛が腐食) | 低 | 中 (アルミが腐食) | 低 (保護あり) |
アルミ合金 | 高 (アルミが腐食) | 中 (アルミが腐食) | 高 (アルミが腐食) | 中 (アルミが腐食) | 低 | 低 (保護あり) |
アルマイト処理 | 中 (アルマイトが腐食) | 低 (保護あり) | 中 (アルマイトが腐食) | 低 (保護あり) | 低 (保護あり) | 低 |
設計・施工時の対策
- 同種金属を使用
- 異種金属を使用する際は絶縁処理(ゴムパッキンやナイロンワッシャーなど)
- 防錆処理を活用(メッキ・塗装・アルマイトなど)
- 水が滞留しない構造設計(隙間、排水経路、ドレンホール)
今あるブラケットをそのまま流用したい(コストを抑えたい)場合
「異種金属の組み合わせが原因で腐食が進行中…でも
もうすでに取り付け済みだし、ブラケットを作り直すには費用も時間もかかる…」こんな時にはコストをかけずに簡単に対策でき予防もできます。
① 【錆を落とす】
錆は放置するとどんどん進行します。まずは徹底的に除去しましょう。簡単に取り外せてドブ漬けできるようでしたら漬け込みタイプ(要水希釈)で確実に落とすことができます。大物のブラケットであれば分厚い錆のみ簡単にケレンした後に錆転換塗料するのがおすすめです。
方法 | メリット | 備考 |
---|---|---|
ケレン(ワイヤーブラシやサンドペーパー) | 最も安価 | 養生が必須な場合も |
錆び取り剤 | 細部にも有効 | 刺激臭あり。保護具必須 |
錆転換塗料 | サビ進行を食い止めサビの上から塗布可 | 分厚い錆には効果薄 |
🛠 おすすめ錆び取り剤(漬け込みタイプ)
🛠 おすすめ錆転換塗料(サビ進行防止してサビの上から塗布可能)
② 【防錆対策を施す】
錆を落としたら、すぐに**「再発防止」の処理**を行うことが重要です。市販の防錆スプレーでしたらモノタロウがおすすめです。安価でスプレータイプで速乾性があり、手間なく施工することができます。なお、ボルトのみ異種金属であれば絶縁ワッシャを取り付けて予防することもできます
処置内容 | 使用製品例 | 効果 |
---|---|---|
防錆スプレー | 油性 or 水性タイプ | 錆の発生を長期間抑える |
錆転換塗料 | 錆の上に塗れるタイプも | 塗膜形成で進行防止 |
絶縁処理 | 絶縁ワッシャー | 接触腐食の予防 |
🧰 絶縁ワッシャ入手先例
まとめ
腐食(錆)は表面の変色だけでなく、構造の強度劣化や安全性のリスクにもつながります。**「気づいたときが対処のチャンス」**ですので、見つけたら放置せずに、除去+再発防止処理をセットで行いましょう。また、設計時や保守保全時には以下のことを考慮しましょう。
- 腐食の多くは、「材質の相性×環境(水分)」で起こる。
- 特にブラケットのような構造固定部材は、接触材とその環境を考慮した材質選定が不可欠。
- 耐久性を高めるには、単なる強度設計だけでなく腐食対策も重要。
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